第29回 脳の部位と機能⑥
- 内山克浩
- 6月16日
- 読了時間: 3分
社会保険労務士の内山です。
いつもありがとうございます。
私たちの脳は、毎日のあらゆる刺激を無意識に仕分けしながら、体のあらゆる動きを微妙にコントロールしています。

まず、目や耳、鼻、舌、肌といった五感から届く情報はすべて「視床(ししょう)」という脳のほぼ中央、脳幹(のうかん)の上あたりに集められます。
視床はまるで鉄道の乗り換え駅のように、全方向から入ってきたデータをいったん受け止め、次の目的地である大脳皮質(だいのうひしつ)へリレーしていく役割を担っています。
そしてそのすぐ下に位置する「視床下部(ししょうかぶ)」は、自律神経やホルモンのバランスを調整し、食欲や睡眠、感情といった本能的な行動を司ります。
例えば、長時間働いてヘトヘトで帰宅し、冷蔵庫からビールを取り出してプシュッと開ける瞬間、「冷たい手触り」「ポンッという缶の音」「ふわっと広がる麦の香り」…こうした五感の情報はまず視床へ集められます。
そして「喉が渇いた」「とにかく飲みたい」という欲求は視床下部で生まれ、そこで初めて私たちは「あ、ビールが飲みたいんだ」と自覚するわけです。
視床下部がストレスや疲労を感じ取ると、食欲過多になったり不眠に陥ったりするのも、こうしたメカニズムのせいだと考えられています。
それから、皮膚に感じる感覚にも優先順位があることをご存じでしょうか?
優先順位は、①関節位置覚、②振動覚、③触覚(摩る)、④鋭い痛み、⑤鈍い痛み、⑥冷覚、⑦かゆみであり、順位の高い感覚を優先処理します。
痛みと同時にかゆみを感じる状況では、痛みが優先されるためかゆみは後回しにされます。
痛いときは患部をさすり、かゆいときは軽く叩くと、どちらも不快感が和らぐわけです。
ぜひ一度お試しください。
また脳には、意識しないうちに物を認識する力もあります。
正常な状態なら、後頭部にある「第一次視覚野(だいいちじしかくや)」で視覚情報をキャッチし、見ているものを理解しますが、ここが損傷すると何も見えない状態になります。
しかし実際には、視覚を完全に失った人でも、障害物で散らかった場所をぶつからずに歩ける例が報告されています。
これは使われなくなった視覚野が聴覚機能を吸収し、音を通常の2倍の鋭さでとらえるように“再配置”されたためだそうです。
このように、脳は失われた能力を別領域でカバーしようとする柔軟性を持っているのです。
脳は毎秒約4億ビットもの情報を処理していますが、そのうち私たちの意識に上るのはわずか2000ビット程度です。
残りの99.9995%は振るいにかけられ、必要なものだけが残る仕組みになっています。
日々の仕事や雑多な情報に囲まれても、私たちは意識が追いつかないほどの膨大なデータを、知らないうちに脳が整理してくれているというわけです。
こんなにも複雑で、かつ見えないレベルで繊細に働く脳のおかげで、私たちは何気ない日常をなんのストレスもなく送れているんですね。




